沖辰商店店主・沖本大助さん

観光地になる前から、
鞆の日常を支えるお店

沖辰商店 店主
沖本大助さんの物語り

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沖辰商店店主・沖本大助さんの物語り

お店の空気は、店主がつくる

お店もお客さんも、
鞆で一緒に生きている

沖辰商店があるのは、江の浦地区の県道47号線沿い。
特に観光スポットはなく、昔ながらの鞆の暮らしが残るエリアだ。

お店を訪ねると、店主の沖本大助さんが迎えてくれた。

もともと沖辰商店は、店主のお父さんが戦後まもなく開いた八百屋が始まり。
当時は配給の仕事を請け負いながら、お店の営業をしていたという。

「今では鞆の生活を支えるお店だと聞いたのですが」
そう伝えると、
「いやいや。支えるというか、こっちが支えてもろうとるというか。
おかげで生活できとるんじゃけぇ、おたがいさまの部分も大きいんよ」

そう言って静かに笑う沖本さんは、なんだか拍子抜けするほど、
気取らず、飾らず、マイペースな人だった。
なんとも言えない居心地の良さは、
店主が醸し出す雰囲気から生まれているのかもしれない。

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沖辰商店店主・沖本大助さんの物語り

観光客が知らない、
鞆の浦リアルスポット

鞆の日常が見えてくる、
売れ筋ベストスリー

沖辰商店は、いわゆる“よろず屋”。
野菜や果物、お菓子やパン、インスタント食品、
トイレットペーパーや調味料などなど、
食料品から日用品まで、
ありとあらゆる商品がそろうので
鞆で生活する人たちは、わざわざ遠出をしなくても、
だいたいのものがここで手軽に調達できる。

仕入れのポイントを聞いてみたところ、
「まぁ、勘じゃな」とひと言。
その朴訥とした話しぶりに沖本さんの人柄が滲み出ていて、
会話させてもらうだけで、なんだかすっかり楽しくなる。

お店の売れ筋ベストスリーを聞いてみると、
「ナンバーワンは果物じゃな。仏さんにお供えでもするんじゃろう」
と、寺町でもある鞆の浦らしい答えが。

「ツーは1食分くらいの小さいパックにした手作り総菜とか、
あとカップ麺とかパンとかお菓子とかが人気かなぁ。
でもカットした生野菜もよう出るし…。いけん、
ツーもスリーもなくなってしもうたわ(笑)」
そう言って沖本さんは、笑いながら頭を掻く。

実はこの手作り惣菜は、沖本さんのお姉さんが作っていて、
ハンバーグや肉じゃが、野菜や魚の煮物など、
充実したメニューが日替わりで並ぶそうだ。

高齢化率が50%を超える鞆の浦には、
一人暮らしのお年寄りも多いため、
手間がかからず食べきれるものが人気があると、
沖本さんは話してくれた。

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相手の暮らしに、
寄り添うサービス

自然なやりとりで、
要望に応えていく

最近、住民たちが重宝しているのが、
沖辰商店の宅配サービス。
特に体の不自由な方や高齢者の方が
日常的に利用しているのだとか。

沖本さんは、電話一本で欲しいものを配達したり、
お店で選んだ品物を、一緒に家まで運んであげたり。
お客さんのいろいろな要望に日々快く応えている。

「なかには『今日なんか美味しそうな果物ある?』
『デコポンでええのがあるよ』『じゃあそれ3つちょうだい』
といった具合に買い物をする人もおるよ」と話す沖本さん。

なるほどなぁ…。と関心しながら話を聞いているところへ、
「お兄さん、ちょっと電話貸してえ」と、
突然おばちゃんが現れる。
「ええよええよ」と店内の奥に招き入れる沖本さん。

あまりにも自然なやりとりで、
ご近所の方のお願い事を引き受けている、
店主の姿はとても印象的だった。

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当たり前のことをする。
ただそれだけのこと

特別なことは、
何もしていない

沖本さん本人は、
大それたことをしているつもりが全くない様子で
宅配サービスのことを話してくれた。

「そんなもん昔からやっとったし、子どもの頃もよう手伝ようたで。
『どこそこのおばちゃんの家にこれ持って行って』とか、
荷物が増えたお客さんがおったら一緒に家まで持ってあげたりな。
今も自転車に積めないくらい荷物が多くなれば持って行くし、
息子も手伝うしな。昔から変わらんことを、今もしよるだけで
ワシらにとっては普通のことなんよ」

沖本さんが昔からやっていたこと。
それは、本人にとってみれば普通のこと。

でもその普通が今でも続いていて、
人間どうしの温かいやりとりがあることは、
やっぱり特別なことなのだと思った。

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自然な気遣いで、
地域を見守る

意識せずとも、
できていること

「やっぱり、毎日来とった人が来なくなったら
大丈夫かなぁって思うわな。
最近見んなぁと思う人がおったら、
『あのおばさん、どうしょうる?』って、
お客さんに聞くこともあるよ」

沖辰商店は
町のセーフティーネットとしても機能しているようだ。
ただ、そういったことを意識せずにできてしまうところもまた
沖辰商店なのだと思った。

地域を見守るそのまなざしは、どこまでも自然体だ。

これからお店をどうしていきたいのかを尋ねると、
「そうじゃな…。今まで通りじゃな」と言って
沖本さんは笑った。

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今まで通りを、これからも

移住を考えている人は、
一度足を運んでみては?

「あんまり座って話しとってもいけん」
そう言ってお店の営業に戻る沖本さん。
話を聞いている間は、息子さんがレジに立ち、
いろんな人が買い物を済ませていった。

沖辰商店ほど、鞆の浦の日常の縮図といえる
場所はほかにないと思った。

もしも、鞆の浦へ移住を考えている人がいるなら、
鞆の浦がどんな場所かを知りたい人がいるなら、
ぜひ一度、沖辰商店に足を運んでもらいたい。

(それにしても、沖本さんは、
世界で一番、沖辰商店が似合うなぁ)

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  • Text : たけだみちお
  • Photograph : 小野克己

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