大田記念病院 島津英昌さん/笹井佳奈子さん

鞆の海と市内の病院が、
「食」でつながる物語り

脳神経センター大田記念病院
広報 島津 英昌さん
管理栄養士 笹井 佳奈子さんの物語り

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大田記念病院 島津英昌さん/笹井佳奈子さんの物語り

食の大切さを知る
病院こだわりの献立

病院での食事も、
普段のように楽しい時間にしたい

脳神経センター大田記念病院(以下、大田記念病院)は、
もともと食に強いこだわりを持つ病院だった。
亡くなった創業者夫人が、農業を始めるほど情熱を注いでいたという。
歴代の栄養士さんによるこだわりの献立も歴史が長く、
それは今も受け継がれている。

今の病院食について、管理栄養士の笹井さんに話を聞くと、
牛丼、ラーメン、ビビンバ、揚げ物など、
意外なメニューもあって驚いた。

「いかにも味気ない病院食じゃなくて、
やっぱり楽しく食事をしてもらいたいんです。
献立を決めるときも、家で私が食べているものを出したいと思うので。
普段食べているような食事を、患者さんにも提供できるのが理想ですね」

もちろん、患者さんの体調によって、制限が必要な場合もある。
そんなときでも、たとえばラーメンを出す場合は、
「汁は半分残してください」という紙を添えたり、
「牛丼はOKだけど紅ショウガは我慢してください」といった
条件付きで、普段の食事が食べられるよう気を配っているのだという。

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「理想の食」と
「わかめ」の関係

摂取しすぎた塩分を排出する、
わかめのはたらきに着目

大田記念病院は、
2014年の福山ばら祭にブース出展したことをきっかけに、
減塩キャンペーンを実施してきたほか、
病院プロデュースによる「だしパック」を開発して、
お塩の代わりにだしを使うことを提案している。
また、減塩や減糖につながる「レシピ本」を発行するなど、
とにかく「食と健康」に関する活動に力を入れている。

「うちの理事長から鞆の浦でのわかめの養殖の話を聞いたときは、
すぐに自分事にできませんでした。
でもわかめについて調べていくと、カリウムが豊富な食材で、
体内にある余分なナトリウムを排出してくれることがわかったんです。
つまり、わかめには取りすぎた塩分を外に出してくれる
はたらきがあるんですね。
これって、かたちを変えた減塩じゃないかと。
これなら自分たちの活動ともマッチすると考えて、
漁協とコラボさせてもらったんです」

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海まで10キロ!
「減塩」に好都合な立地

減塩を目的に、
病院と地元の漁協がつながる

鞆の浦の漁港から大田記念病院までは、車で約20分程度で着く。
この立地は、わかめの鮮度だけでなく減塩の観点から見ても
メリットは大きいのだと、広報の島津さんは言う。

「通常、わかめの鮮度を落とさないまま流通させるためには
〈塩蔵処理〉と言って、ゆがいたわかめを
塩漬けにする処理を行っているんですね。
でも鞆の浦から当院までの近距離なら塩蔵処理の必要がありません。
もちろん、わかめが新鮮なまま届くという点でも嬉しいことですが、
同時に減塩という目的もクリアできます。
そこは鞆の浦に近い私たちの病院だからこそできることだと思いますね」

そして何よりも、地産地消の実現に関われたことは、
病院としても嬉しいことだと、島津さんは話してくれた。

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柔らかく
調理しやすいわかめ

病院食の食材として、
鞆の浦わかめが大活躍

鞆の浦で獲れたわかめは、実際にどのように使われているのか。
管理栄養士の笹井さんに聞いてみると、
「サラダ、わかめスープ、豆腐和え、韓国風サラダ、
煮魚の添え物、なすの和え物などなど。
わかめって日常的に使う食材なので、
いろんな献立で活躍していますね。
あとは、鞆の浦のわかめって柔らかいんです。
乾燥わかめにはない食感が味わえて、調理もしやすいんですよ」
と教えてくれた。

「でもひとつ言わせていただくと、漁師さんって、
塩分を取りすぎる人が多いんですよね……。
現役期間の長い仕事だと思いますので、気を付けてくださいね」
と、管理栄養士さんらしい忠告も。

たしかに、いわゆる“漁師飯”と呼ばれる料理は、
魚、しょうゆ、酒で一気に火をかけて作るような豪快なものが多い。
医療従事者としては、あのシンプルながら塩分たっぷりの
食事が心配になるようだ。

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親しみやすい病院として、
地域との接点を増やしたい

気軽に立ち寄れない
イメージを払拭するために

だしパック、レシピ本、そして鞆の浦わかめ…。
なぜ、ここまで積極的に病院の外にまで活動の場をつくるのか。
島津さんが話してくれた。

「これからの医療は、地域包括ケアの時代。
私たちも急性期医療を維持しながらも、
在宅の領域に医療の場を広げていかなくてはいけません。
実は、当院が課題としているのは、地域の人にとって
在宅のイメージがないということ。そして、
町のお医者さんのように親しみやすいイメージがないことなんです。
レシピ本の発行や減塩キャンペーンの活動は、地域の方と接したい、
親しんでもらいたいという思いの表れでもあるんです」

今回のわかめプロジェクトも、地域と歩んでいく姿勢や、
地域とともに病院があることを伝えたい。そう言って島津さんは、
鞆の浦わかめを使ったレシピブックを見せてくれた。
この小冊子は、病院内のラックに置いてあり、
来院した人が自由に持って帰れるものだそうだ。

「特に体の調子が悪くなくても大丈夫。
わかめのレシピブックを目当てに
当院に立ち寄っていただいくのも大歓迎ですよ」
そう言って、島津さんと笹井さんは笑った。

地域の健康を考え、病院の外でも積極的に地域とかかわる
病院が身近にある事実が嬉しかった。

鞆の浦で育ったわかめが、鞆の浦をはなれ、誰かの健康を支えている。
そのことを知ってから訪れる鞆の浦は、どのように見えるのだろう…。
今度は漁船から、鞆の海を眺めてみたくなった。

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  • Text : たけだみちお
  • Photograph : 小野克己

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