カナダからの旅人 グレッグ・ロバートさん

海の向こうからやって来た
旅人が想う、鞆の浦の魅力

カナダからの旅人
グレッグ・ロバートさんの物語り

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カナダからの旅人 グレッグ・ロバートさんの物語り

鞆の浦塾サロンに現れた
めずらしいお客さん

縁あって鞆の浦へ辿り着いた旅人の物語

鞆港に停泊している漁船を眺めながら散歩をしていると、
顔なじみのおばちゃんに声を掛けられた。
「鞆の浦塾サロンに、面白いお客さんが来とるよ!」

鞆の浦塾サロンとは、地域住民の「交流の場」となっている古民家。
そこへ、外国人の旅行者が来ているらしい。

早速、鞆の浦塾サロンへ行ってみると、
英語を話している背の高い男性がいた。

英語はそんなに得意でもないけれど、彼に鞆の浦の印象を聞いてみたい。
ハロー、と話しかけてみると、
「ドーモ!」と日本語の挨拶が返ってきた。

カナダ人のグレッグ・ロバートさん。
なぜ鞆の浦を訪れたんですか、と尋ねると、
聞き取りやすい英語でゆっくりと話してくれた。

「カナダを離れて2年くらいたつんだけど、1年間韓国で英語の
教師をして、その後日本へ来たんだ。
日本ではいくつかの町を旅行して、今は福山市の英会話学校を
手伝ってるんだよ。その関係で鞆の浦へ来たんだ。
もうすぐ帰国するから、鞆は僕にとって日本で過ごす最後の場所だよ」

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カナダからの旅人 グレッグ・ロバートさんの物語り

鞆は旅のしめくくりに
ふさわしい静かな町

人気の尾道もいいけれど、鞆の浦もいい

鞆の浦はどうですか、と聞いてみると
「ベリーナイス!」とのこと。

「静かで趣があって、すごくいい町だね。
ずっと賑やかな町を旅してきたから、最後にこういう場所で過ごせて
良かったなぁと思ってるんだ。尾道ともまた違う雰囲気だよね」

グレッグさんは福山市に隣接する尾道市へも行ったのだと話してくれた。

「尾道は旅行者向けに色々と整っている感じ。鞆の浦はもっと静かで、
何ていったらいいかなぁ。本物っていうか、リアルな感じがするよ。
尾道もすごくいい町だけど、僕は個人的に鞆の浦が好きだな」

グレッグさんのその言葉に、私は思わず満面の笑顔になってしまった。
それを見たグレッグさんは、
「お、もしかして、鞆の浦と尾道はライバルなの?」
と笑いながら言う。

ライバルというわけではないけれど、「鞆が好き」といわれると
やっぱり嬉しいのだ。

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鞆の浦で体験した
印象的な出来事

地元の人達の、懐の深さを感じる

「鞆の人達は、すごくフレンドリーだよね!」
とグレッグさんは言う。
「この間、大阪から遊びに来てた日本人の友達と、鞆の神社でやってる
フリーマーケットを手伝ったんだ。その時に面白いことがあってね」

フリーマーケットとは、沼名前神社で毎月第四日曜日に行われている
「とも・潮待ち軽トラ市」のことだ。
グレッグさんは大阪から来た友人と一緒に軽トラ市を手伝った後、
昼ごはんを食べようと、近くのお店に向かって歩いていた。
すると、道の脇の空き地でバーベキューをしていた地域の人達が
声を掛けてきたのだという。

「こっちきてビール飲みなよ、ヤキトリもあるよって、
バーベキューに誘ってくれたんだよ。全然知らない人達だったんだけど、
すごくフレンドリーだなぁって思ったよ」

もしかすると、声を掛けてきた地域の人達は、グレッグさん達が
軽トラ市を手伝っている様子を見ていたのかもしれない。

「そうだね、だから声を掛けてくれたのかな。でも、僕らにとっては
初対面の人達だったから、びっくりしたよ。大阪の友達も驚いてた。
面白い経験だったなぁ」

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なんでも楽しめば
多くの人とつながれる

細かいことにはこだわらず、まず体験!

「そういえば明日、リョーマの恰好をするんだ。よかったら見に来てよ」
と、グレッグさん。
坂本龍馬の仮装をして、鞆の町を歩くそうだ。

150年前、幕末の志士・坂本龍馬が乗っていた船、「いろは丸」が
瀬戸内海で事故に遭い、その時、龍馬は鞆の浦に数日間滞在している。
その「龍馬ゆかりの地」を観光客に楽しんでもらおうと、
観光ボランティアの人達が、土日・祝日に龍馬に扮した姿で鞆の町を歩いて
いるのだ。グレックさんもその活動に参加するのだろう。

「今回、なんで僕がリョーマになれることになったのか、
よく分からないんだけどね。なんでもオッケー、オッケー!って
引き受けるんだけど、詳しいことはいつもわからないんだ」
そう言ってグレッグさんは笑った。

なんでも気軽にチャレンジするのが、異国での旅を楽しむコツなのだろう。
私は、龍馬姿のグレッグさんを見に行くと約束した。


翌日。
常夜灯の近くで、グレッグさんを発見した。
観光ボランティアのメンバーである大西公孝さんも一緒だ。

グレッグさんに、着物が似合ってますね、と言うと、
「うーん」と微妙な表情をしている。

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旅の醍醐味は、
人と触れ合うこと

洋風(?)龍馬が語る、鞆の魅力とは?

グレッグさんは、自分の足元を指さした。
「ここが、ちょっといまいちだよね」

見ると、足元がスニーカーで、しかも袴の丈が少し足りない。
袴の丈が短いというよりは、グレッグさんの足が長いのだと思うが、
着物とスニーカーはちょっと合わないかも……。

でも、ビシッと完璧な恰好をしているよりも、少しコミカルな雰囲気が
ある方が親しみやすくなるものだ。
地元の子どもたちが、はにかみながらつたない英語で
グレッグさんに話しかけてきた。
グレッグさんもニコニコしながら、答えている。

「鞆の浦は、地元の人と観光客との距離が近い感じだよね。
すごく面白いよ。今回は短い滞在だったんだけど、
カナダに帰ったらワーキングホリデービザを取って、また鞆へ来たいな」

そういうグレッグさんに、ぜひまた来てくださいと伝えて、
私は、二人の龍馬を見送った。

観光地の魅力としてよく取り上げられるのは、特産品や美しい景色。
でも、鞆の浦で一番印象的だったのは「人」だったとグレッグさんはいう。
その知る人ぞ知る一番大きな「鞆の魅力」を、
もっと多くの旅人に感じてもらえるといいなぁと思う。

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  • Text : 豊原みな
  • Photograph : Nipponia Nippon

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