地域社会が抱える課題を解決する「ノーマライゼーションのまちづくり」の実現に向けて
ニッポニア・ニッポンの地域活動を通じて、これまでに多くの人々との出会いをいただきました。中でも鞆の浦の魅力や暮らしを伝える「物語」の取材で出会った人々とのつながりは、私たちに様々な気づきを与えてくれました。 「物語」の取材では、鞆の浦の魅力や課題、鞆の浦に対する思い、鞆の浦の未来などについて、じっくりとお話を伺っていきます。鞆の浦とのつながりや、年齢、性別、職種、町での役割などなど、取材させていただいた方は本当に様々で、どなたも熱い想いをもって、鞆の浦のためにご活躍されている方ばかりでした。
取材を通しての「気づき」
- ・みんな、鞆の浦の人に愛されて、また鞆の浦の人を愛している
- ・鞆の浦が好き、という想いを日常の中で伝える場面がない
- ・同じまちに住んでいる者同士、案外知らないことが多い
私たちだからできる「役割」
- ・鞆の浦が好き、という想いを包み隠さず発信すること
- ・誰でもいつでもつながれる場所をつくること
- ・「郷土愛」について共感出来る気づきをつくり続けること
私たちが目指す「共感」できるまちづくりのカタチ
- ・鞆の浦が抱える社会課題を解決する
- ・自然体で関わることができる
- ・他地域と差別化でき、未来創造できる
その結果、たどり着いた言葉があります。
それは、「ノーマライゼーション(normalization)」。
ノーマライゼーションとは、社会福祉をめぐる社会理念の一つで、高齢者も、障害者も、健常者と同様の生活が出来る様に支援するという考え方。
私たちは、ノーマライゼーションの考え方は、日本が抱える高齢化社会問題を解決へと導くためのヒントがあると考えています。また、ここ鞆の浦には、長い歴史の中で育まれた鞆の浦独自のコミュニティが自然にその基礎を築いており、すでに未来に向けた取り組みへとカタチを変えようとしています。
福祉のまち、住みたくなるまち、鞆の浦
観光地として知られる鞆の浦は、「福祉のまちづくり」を実践している町としても注目されています。 福祉といえば、高齢者や障がい者への援助。特に今は、高齢者福祉の仕組みづくりが重視されており、これは日本全国共通の課題です。鞆の町もそこから始まりました。でも、それだけでは終わっていません。独自の取り組みが、住民の「大好きなこの町のために」という想いを引き出し、想像以上の大きな流れを生み出しています。
福祉に関わるプロフェッショナルたちの力
「鞆物語」を通じて多くの人に出会うなかで特に印象深かったのは、鞆の町で介護に携わる人たちの行動力と意識の高さです。世の中で介護問題が注目されるずっと前から、この町では介護施設・鞆の浦さくらホームを中心に斬新な取り組みが始まっていました。施設と行政・病院が連携するだけでなく、地域と施設の間にある壁を取り払い、地域住民と施設利用者とを結びつける。町なかに複数の拠点をつくり、お年寄りが可能な限り住み慣れた地域で暮らし続けられる環境を整える。10年かけて、こういったことを実現させたのでした。これは、後に厚生労働省が推進する「地域包括ケアシステム」の内容そのものです。
介護のプロたちの取り組みによって生まれたのは、お年寄りにとって住みやすい環境だけではありません。住民の意識も大きく変化していったのです。まずは、介護職が間に入ることで、支えが必要な人をどうやって見守ればいいかがわかり、自然と行動に移せようになったとのこと。そうしているうちに、自分がどうなってもここでずっと生きていけると思えるようになった―そう話してくれた地域の人もいました。
町づくりで一番大切なことは何か?
町づくりで一番大切なことは何か?
福祉の世界には「ノーマライゼーション」という理念があります。
これは、高齢者・障がい者も健常者と同じように過ごせる環境をつくるということです。
鞆の浦での取り組みにも、この考え方が根底にありました。
ノーマライゼーションは一般的にはあまり知られていない概念ですが、決して他人事ではありません。
自分が高齢者になった時のことを考えてみてください。住んでいる地域に愛着があればあるほど、歳をとったと
きに地域に居場所がなくなるのは耐え難いことではないでしょうか。
鞆の浦では高齢者の見守りのほか、障がいを持つ子どもたちの居場所づくりや、育児支援などの活動も盛んです。
地域福祉に関わっている人たちは、ノーマライゼーションをもっとかみくだいて、こんな言い方をしています。
「誰もが安心して自分らしく生きていける町をつくりたい―」
福祉から生まれた、鞆ならではの魅力
「誰もが」といっても誰もかれもというわけではない、と町の人たちは言うかもしれません。では、どういう人を指しているのでしょう?それは、きっと「この町が大好きな人」なのだと思います。
鞆の浦が大好きで、ここに住みたいと思うなら、ずっと安心して自分らしく暮らしていくことができる。
福祉に取り組む人たちが地道な努力を重ねた結果、地域住民はそんなふうに思うようになったのです。住民の意識は徐々に変わり、安心感や連帯感が生まれました。やがて自然と、支え合うのが当たりまえという考え方―つまり、互助の精神が育まれたのでした。この精神が、昔ながらの人情と融合して、鞆ならではの魅力となり、地域の底力となっています。近年、介護を必要としないうちから高齢者が移りすむコミュニティ「CCRC(Contin
uing Care Retirement Community)」の整備が提唱されています。そんな概念を知らないうちから、鞆の浦では、高齢者が生き生きと過ごせるコミュニティを目指す流れがありました。そして、今はそれ以上のものになりつつあります。お年寄りだけでなく、生きづらさを抱える人や、自分らしさを追求する若者、安心して子育てをしたい人たちにとって住みやすい場所になっているのです。それが実現できるのは、町づくりを進める人たちのなかに「誰もが安心して自分らしく生きていける町をつくりたい」という想いがあるからです。
新しい取り組み ― 鞆の浦まちづくり塾
もっとたくさんの人に鞆の魅力を知ってもらうために、2015年から「鞆の浦まちづくり塾」が開催されています。この町ならではの福祉活動、古民家の再生、伝統的なお祭りを体験してもらうプロジェクトです。第一期まちづくり塾には200人ちかくの参加があり、修了式を迎える頃には、鞆の浦に自分の居場所を見出した若者もいました。
今、町づくりや福祉に関心のある人がどんどん鞆の浦に集まってきています。毎年のように鞆に通う人は「鞆の人情に惚れた」といい、若き移住者たちは「幼い頃の故郷にいるようだ」といいます。その声を聴くことによって地域住民が地元の魅力を再確認しています。
鞆の浦では、地域福祉を充実させる過程で地域の力が高まり、それが町づくりの原動力へと発展しています。
大きな経済力があったわけではなく、行政主導で進められたわけでもありません。地域創生の名のもと、日本中で町づくりが盛んに行われていますが、短期的な成果を求め過ぎて、活動を維持するのが難しくなっている地域もあるようです。町づくりには色々な方法があると思いますが、鞆の浦のように、住民みずからが地域福祉に真正面から取り組むことは、遠回りなようで確実な成果がでる方法だと思えてなりません。それが、本質的なコミュニティ―当たり前のように支え合うことのできる文化をつくることになるからです。
鞆の浦から地域福祉のまちづくりを発信する
少子高齢化、若年層の流出、人口減少……。鞆の町が抱えている問題は、多くの地方都市が抱える問題と同じです。
ただ「地域福祉のまちづくり」によって、この町の未来に明るい光が差しつつあるのはまぎれもない事実です。
地域の人に話を聴いていると、鞆の未来が目に浮かびます。
あらゆる世代が対等に共存でき、生きづらさを抱える人も「ここなら、自分らしくいられる」と思える町。
もともと鞆に住んでいる人も、鞆に惹かれて移り住んだ人も、深く結びついて支え合える町。
地域のなかで経済が循環し、目に見えない豊かさを大切にできる町。
古来の伝統を受け継ぎつつも、新しい伝統を生み出していくことができる町。
すべての人が、「最期までこの町に住むことができて、本当に良かった」と思える町―。
この未来像が現実化することに確信を持てるのは、互助の精神が育まれているコミュニティが鞆に生まれているからです。鞆の浦の町づくりは、これから高齢化を迎える日本中の、いや世界中の町のロールモデルになるのではないかと強く感じています。どの地域にもかつてはあった住民同士の絆を、福祉の力で再生し、強化できることをこの町が示しているのです。2014年にはNHKワールドTVの海外向け番組「Journeys in Japan」で、鞆の浦での高齢者福祉の取り組みや、住民が幸せになるための町づくりが紹介されました。観光情報番組でこの内容は異例のことだそうです。鞆の町から発信できることは、今後ますます増えていくでしょう。
お問い合わせいつでもお待ちしております。
私たちは、鞆の浦での「地域福祉のまちづくり」を応援し続けるとともに、志を持つ皆さんと、鞆の浦の人たちとをつなげる架け橋でもありたいと思っています。そうして生まれる出会いやご縁によって、ひとつでも多くの町がより魅力的になっていくことが何よりの望みです。そこで鞆の浦型町づくりに興味のある方に向けて、現地の取り組みを肌で感じていただくご視察・体験ツアーをご提案しています。参加をご希望の方はニッポニア・ニッポンまでご連絡ください。
<連絡先>
ニッポニア・ニッポン「鞆物語」運営事務局
TEL:
鞆の浦まちづくり「ノーマライゼーション」の物語
鞆の浦では次世代に繋ぐ、誇れるまちに向けて、ノーマライゼーションのまちづくりが拡がりはじめています。
ここでは、鞆の浦での具体的な取り組みや、鞆の浦のノーマライゼーションストーリーをご紹介させていただきます。
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鞆の海と市内の病院が、
「食」でつながる物語り大田記念病院 島津英昌さん/笹井佳奈子さん
福山市内でも有数の病院であり、神経疾患や脳血管障害の専門病院として全国的にも知られている脳神経センター大田記念病院。今回、漁協とタッグを組み、「鞆の浦わかめプロジェクト」を結成した。その意外な活動に至った経緯とは?
2017年6月1日 公開
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「介護をする」世代が
支え合い、励まし合える場所鞆の浦塾サロン 式見景子さん
「鞆の浦まちづくり塾」で塾生達が再生した古民家。その民家は今、町の人が集うサロンになっている。運営に関わっている式見景子さんによると、サロンに来る人は60代の「介護をしている世代」が多いとのこと。彼らがちょっと一休みして元気をもらう場所になっているようだ。
2017年4月3日 公開
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その存在が安心感をもたらす
頼れる「町のお医者さん」徳永医院 徳永敬さん
大正時代から鞆の浦で診療所を営んできた徳永医院。その三代目、徳永敬先生は「カメラ好きのお医者さん」として地域の人に親しまれている。地域医療に従事して20年以上が経つという徳永先生が、町の医師としてずっと大切にしてきたことを語る。
2017年1月5日 公開
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鞆は故郷から遠く離れた町
でもここには同じ魅力がある社会福祉士 村上理沙さん
鞆学区敬老会で出会った社会福祉士の村上理沙さん。村上さんは、大学時代に実習で介護施設・さくらホームを訪れ、その後、鞆に移住することを決意した。幼少時代を過ごした故郷と同じ魅力を持つ鞆の町に住み始めて、村上さんが今、思うこと。
2016年6月13日 公開
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まちづくり塾から生まれた
鞆を支えていく若い力鞆の浦まちづくり塾実行委員会代表 羽田知世さん
第一回「鞆の浦まちづくり塾」が終了した日、実行委員会代表の羽田知世さんに塾の舞台裏を語ってもらった。地域にとっても自分自身にとっても実りある塾だったという知世さん。行動を起こせば結果は後からついてくるということを、身をもって体験した。
2016年6月9日 公開
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これからの介護を学びたい
想いが実現したまちづくり塾鞆の浦まちづくり塾塾生 新利恵さん
12年間、地元の高校で教師を務めた新利恵さんは、退職直後という絶妙のタイミングでまちづくり塾に出会った。特に印象的だった平地区での地域ネットワークやお祭りについて熱く語ってくれた。
2016年4月12日 公開
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塾生が経験した貴重な出会い
そこから生まれる未来がある秋祭りと「鞆の浦まちづくり塾」
2015年7月に開講した「鞆の浦まちづくり塾」。その最後のプログラムが、渡守神社の例祭である秋祭りだ。夏から秋を鞆で過ごし、塾生たちは様々な経験をして、それぞれに発見したものがある。秋祭りに参加した3人の塾生の物語り。
2016年4月5日 公開
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ここでやりたいことがある
だから今、この町に住む鞆の浦まちづくり塾塾生 下畠有喜さん
「鞆の浦まちづくり塾」の第1期生、下畠有喜さんは、鞆に通ううちに、この町に移住することを決意した。京都で作業療法士として働いていた下畠さんにとって、鞆との出会いは人生の転機。この場所で、自分が目指していた世界が生まれつつあった。
2016年4月1日 公開
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走ったぶんだけドラマがある
鞆の浦の人間模様いま・むかしアサヒタクシー 倉田道広さん
鞆の浦でたった1人のタクシー運転手・倉田さんは、この町の誰かを、この町のどこかへ今日も運ぶ。穏やかに時が走る港町の、ゆるやかに紡がれてきた時代の一片を、倉田さんはどのように語るだろうか。
2015年4月10日 公開
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子ども達もお年寄りも
みんなが集える駄菓子屋あこう屋
関町にある「あこう屋」は鞆で唯一の駄菓子屋。鞆中の子ども達が通うこの店は、お年寄りと子ども達が自然な形でつながる場所でもあった。店長の西村千賀子さんに聞いた心温まる物語り。
2015年4月2日 公開
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鞆の子ども達のために
できるかぎりのことを鞆の浦,鞆こども園,片岡孝子
町の内外から子ども達が集まる「鞆こども園」で出会った片岡さんは、キャリア40年のベテラン保育士。片岡さんが地元の鞆の浦に根を下ろすまでには、運命的な出来事があった。
2015年3月31日 公開
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その人“らしさ”を支えたい
地域で介護するということソーシャルワーカー 石川裕子さん
鞆の浦・さくらホームで働く石川裕子さん。歳をとっても、介護が必要になっても「鞆で暮らせて幸せ」と思ってもらいたい。「その人らしさ」を大切にする介護が、町の人達の意識を変えていく。
2014年11月12日 公開
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人々に自然と根づいた
「見守る」という心の交流鞆の津ふれあいサロン
人口の少ない平という町で、地域交流の場となっているサロン。この場所を中心とした人々のあたたかな触れ合いと、楽しく前向きに生きるおばちゃんたちの笑顔をつづる。
2014年7月4日 公開
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ぶっきらぼうな言葉の奥に
平を想う優しい心があった「NPO法人 鞆の人と共にくらしを」稲葉繁人さん
元「鞆平保育所」の建物を再利用したこの施設で、ふれあいの場をつくり続ける「NPO法人 鞆の人と共にくらしを」の代表・稲葉繁人さん。平という地域に対する、“想いと責任”の物語り。
2013年1月11日 公開
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人々が当たり前に顔を合わせる
風通しのいい“家”を求めて「鞆の浦さくらホーム」羽田冨美江さん
鞆という地域のために、鞆に住む人のために、真摯に活動する羽田冨美江さん。鞆の豊かな明日のため、責任と覚悟をもって人と地域の架け橋になる。羽田さんが紡ぎだす、鞆の町の良い変化の兆し。
2013年1月11日 公開
「ノーマライゼーション」について
ノーマライゼーション(normalization)とは、高齢者や障害をもつ人が、
可能な限り一般社会において障がいがない人と同様に
通常の生活、ライフスタイル、人生を選択できる社会づくりの理念のこと。
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