分かる!ノーマライゼーション世界で、地域で広がる福祉の在り方―

地域の中のふつうの暮らし、ノーマライゼーション

ノーマライゼーションとは、高齢者や障がいのある人を含めて、誰もが通常(ノーマル)の生活を送れるようにしようという考え方のことです。生まれ育った地域の中でお互いに支え合い、ふつうに暮らすこと、それがノーマライゼーションです。

ノーマライゼーションの概念や考え方を広めたスウェーデン人のニィリエは、以下の8つをノーマルにすることと説明しています。


  • 1日のリズム


  • 1週間のリズム


  • 1年のリズム


  • ライフサイクルの発達的経験


  • 個人の尊厳と自己決定権


  • 性的関係


  • 経済水準とそれを得る権利


  • 環境形態と水準

それは、高齢者や障がい者も含めて誰もがするふつうのことです。


  • 朝起きたら仕事や学校に行く


  • 休日は自由に過ごす


  • 年間の休暇も楽しむ


  • 年齢や経験にふさわしい生活をする


  • 社会で人々と接し、自分のことは自分で決める


  • 恋をして結婚し、家庭を築く


  • 仕事・収入を得る


  • 地域の人が利用する施設・サービスを活用する

ニィリエはこのような考え方を各国で伝え、ノーマライゼーションの概念は世界に広がっていきました。

各地で広がるノーマライゼーション

人々を違いで分けるのではなく、個性を持った人びとが入り混じり、互いに支え合うノーマライゼーションが、いま日本各地で広がっています。

住み慣れた町のノーマライゼーション

障がい者や高齢者は、大規模施設に入居させられてしまいがちですが、大型施設で個人に適したサービスを提供するのはなかなか難しいといわれています。そのため障がい者や高齢者の人たちが、大型施設に住むのではなく、生まれ育った町、慣れ親しんだ地域で暮らせるようにする取り組みがあります。脱施設化とよばれるもので、ノーマライゼーションの理念に適っているといえるでしょう。

脱施設化のひとつに、大型施設の代わりに少人数制度のグループホームを活用する事例が挙げられます。グループホームは地域の中心地など人々が過ごしやすいところに位置していて、入居者はホームの中の人たち同士、またホームの外の人たちとも互いに支えあって暮らしています。

教育の中のノーマライゼーション
〜インテグレーションからインクルージョンへ〜

教育にもノーマライゼーションに結びつく動きがあります。それがインテグレーションとインクルージョンです。このインテグレーションとインクルージョンには違いがあります。

インテグレーション
社会福祉の中でもいろいろな意味で使われるようですが「統合教育」のことを指すことが多いようです。統合教育(インテグレーション教育)は、例えば1つの学校に障がい児のためのクラスを普通の教室とは別に作り、そこで障がい児を学ばせるものです。
インクルージョン
インテグレーションの次に生まれた発想が、インクルージョン教育です。インクルージョン教育は、障がいがある、ないにかかわらず、すべての子どもには個性があるものと捉えて、子どもの個性に合わせながら教育すること。そのため障がい児も、障がいのない子どもと同じクラスで同じ授業を受けます。インクルージョン教育では、障がいのある子どもの学びが広がるだけでなく、障がいのない子どももコミュニケーション等を深く学ぶことができると考えられています。
  • 【インテグレーション】
    障がい児のためのクラスを普通の教室とは別に作る

  • 【インクルージョン】
    障がい児も障がいのない子も同じクラスで授業を受ける

身の回りにあるノーマライゼーション

バリアフリーとユニバーサルデザインという言葉を目にする機会は多いのではないでしょうか。ノーマライゼーションを進めていく上で、いずれも欠かせない取り組みです。

バリアフリー
高齢者や障がいのある人にとって活動の妨げになるものを減らし、製品やシステムを使いやすくすることです。
事例として、車椅子の人が使える公共のトイレについて考えてみましょう。せっかく車椅子の人が利用できるトイレなのに、入り口に階段があったら車椅子では入れないので、段差のないスロープで往来しやすくすることがバリアフリーです。

ノーマライゼーションとバリアフリーの違い
ユニバーサルデザイン
国、文化、老若男女の違いや障がいの有無に関係なく、誰もが利用しやすいようにデザインされたものを指します。
先ほどの車椅子の人が使える公共のトイレで考えると、そのトイレがあることを示す標識が、文字でなくイラストを用いて表示され、さらに音声でも説明されていれば、その国の人も外国人も、視覚障がいがある人もない人も「車椅子で使えるトイレがある」とわかります。このような工夫をユニバーサルデザインといいます。
なお、誰でもわかるようにデザインしたイラストのことは、ピクトグラムといいます。

HISTORY
〜ノーマライゼーションの歴史〜

ノーマライゼーションを広めた提唱者たち

ニルス・エリク・バンク−ミケルセン
デンマークで知的障がい児が大型施設に隔離されていた時代、親たちの代わりに障がい者の権利を認めるように要望書を執筆して政府に提出した人です。それが1953年のこと。この要望書が国を動かし、のちにノーマライゼーションの考え方が盛り込まれた法律ができました。そのため、バンク−ミケルセンは「ノーマライゼーションの生みの親」と呼ばれるようになりました。
ベンクト・ニィリエ(ニーリエ、またはニルジェとも)
ノーマライゼーションを研究していたスウェーデン人のニィリエは、1960年代以降、講演したり論文を執筆したりして、ノーマライゼーションを世界に広めました。ニィリエは「ノーマライゼーションの育ての親」と呼ばれています。
ヴォルフ・ヴォルフェンスベルガー
ニィリエとともに活動したドイツ人。カナダ、アメリカに渡って大学で教鞭を執り、ノーマライゼーションの概念や考え方を広めました。ただし、ヴォルフェンスベルガーの考え方は、ノーマライゼーションとは異なると指摘する研究者も少なくありません。

世界と日本におけるノーマライゼーションの動き

1953年
デンマークのバンク−ミケルセンが、障がい者の権利を保証するように
法改正を求めて、社会大臣に要望書を提出しました。
1959年
デンマークが法改正を行い、その前文に「障がい者が、できるだけノーマルな生活を送れるようにする」と書かれました。
そして、社会福祉の重要性に気づいた欧州を中心にノーマライゼーションの考え方が広がっていきました。
1971年
国際連合が、同年の「知的障害者の権利宣言」と1975年の「障害者の権利宣言」で、
ノーマライゼーションの理念を盛り込みました。
1981年
国際連合が「国際障害者年行動計画」を打ち立てました。
ノーマライゼーションの理念が盛り込まれており、これがきっかけとなって
日本でノーマライゼーションの考え方が普及し始めたといわれています。
1990年
米国で、障がい者の権利を保障する「障害を持つアメリカ人法」が制定されました。
現在
日本でも、社会への反映が進みつつあり、高齢者が大型施設に入居するのではなく、
慣れ親しんだ地域の中で住民同士支え合って暮らしたり、障がいのある選手が活躍する
スポーツ・競技の機会が広がったりするなどさまざまな取り組みが動き出しています。
「社会福祉法人ノーマライゼーション協会」では、「ノーマライゼーション社会の実現」を目指し、
障がい者・高齢者の暮らしを支援する活動を行っています。
社会福祉法人ノーマライゼーション協会について
世界に先駆けてノーマライゼーションが進んだ北欧の国々では、
「ノーマライゼーション」という言葉が使われなくなるほど、
ノーマライゼーションが当たり前のことになっているそうです。

ノーマライゼーションの事例