ノーマライゼーションが生まれた背景
ノーマライゼーションという概念が生まれる前、デンマークでは知的障がい児が冷遇されていました。社会とは隔離された施設に収容され、1000人を超える人数で集団生活をしていたのです。
知的障がい児の親は「親の会」を立ち上げ、子どもたちの生活環境の改善や、教育を受けさせることなどを政府に要望します。
そして、この考えを広めたのが、デンマーク社会省で知的障害福祉課の仕事についていたニルス・エリク・バンク-ミケルセン(N.E.Bank-Mikkelsem)です。彼は「親の会」の意見に賛同し、彼らのスローガンを法律として実現するように力を貸しました。こうしてできた法律が、初めてノーマライゼーションといいう言葉を法律に用いた「1959年法」です。
「障害があるからといって、その人が異常(アブノーマル)なのではない。人は障害のゆえに差別されることがあってはならない。身体的もしくは知的に障害があったとしても、一人の人間であり、障害のない人と同等であり、一般市民と同じ条件のもとで生活する権利がある」バンク-ミケルセンはそのように訴え、障害のある人をノーマルにすることではなく、彼らの生活条件をノーマルにすることも訴えました。
※「ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク」野村武夫著(参考)
そもそも「バリアフリー」ってなに?
ノーマライゼーションとよく比較される言葉に「バリアフリー」があります。バリアフリーとは、もとは建築用語として使われていた言葉で、障がい者や高齢者が都市空間で安全に生活しやすくするため、障壁となるものを取り除いていくという意味があります。
1972年に国連の臨時機関連絡会議で、障がい者の社会参加を阻害する物理的・社会的な障壁(バリア)を除外(フリー)するための行動が必要という提案を受け、1974年の国際障害者生活環境専門家会議において「バリアフリーデザイン」という報告書が発表されました。
その後、バリアフリーという言葉が世界に広まりました。アメリカでは人種差別や性的差別といった障壁に対してもバリアフリーという言葉が使われています。ハードの面だけではなく、人々の気持ちの面における障壁を取り除くという意味でも、バリアフリーという言葉は使われているのです。
ノーマライゼーションとバリアフリーは違うの?
バリアフリーは「障がい者」が感じている、様々なバリアをなくすという意味合いがあります。車いす利用者専用のトイレを設けたり、視覚障碍者のために点字案内板を設置したりする。これらは、障がい者の視点から、利用がしやすいようにと作られたものです。
バリアフリーは、障害がある方が困らないようにという、思いやりの心から生まれたと言えるでしょう。けれど「障がい者」という言葉には、どこか隔たり(バリア)のようなものがあるように感じられます。
ノーマライゼーションは、障害があってもなくても同じように暮らせる社会を作るという考え方です。では、バリアフリーはノーマライゼーションの原理に反しているのでしょうか?
実は日本でも近年、バリアフリーの理念が障害者施策という考え方ではなく、全ての人が安全に暮らせる社会を作るという考えに変わりつつあります。
建築面だけではなく、文化や情報、意識の面でも障壁をなくすというように、バリアフリーの意味が拡大されてきています。ノーマライゼーションを実現するための手法の一つが、バリアフリーと言えるのです。
バリア──障がい者にとっての障壁が消えるとき
内閣府が発表した「障害者白書」には、障がい者が社会生活を送るうえで、
1.物理的障壁
2.制度的障壁
3.文化・情報面での障壁
4.意識上の障壁(心の壁)
という、4つの障壁があるとして、これらを除去していかなければならないとの記載があります。そして、バリアフリーという言葉は、障がい者だけではなく全ての人の社会参加を困難にしている、物理的、社会的、制度的、心理的な全ての障壁の除去という意味で用いられると書かれています。
ノーマライゼーションの理念にあるように、障がい者を特別視せず、社会の中で普通の生活が送れるような条件を整えていけば、障がい者のためのシンボルマークは不要になるのかもしれません。
そのためには、街の整備だけではなく、人の心も変えていかなければならないでしょう。4つの障壁のうちの、意識上の障壁がなくなれば、全ての障壁がなくなる日は近いかもしれませんね。
ノーマライゼーションの事例
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デンマークの高齢者向け在宅ケア
ノーマライゼーションという考え方が生まれた国デンマーク。デンマークでは、高齢者福祉において、在宅ケアおよび地域居住という概念があり、実践されています。在宅ケアや地域居住は、個々に適したサービスを提供し、少しでも自立を促そうというノーマライゼーションの理念に則った考え方。その例として、ノーマライゼーション先進国の地域居住をご紹介します。
2016年10月5日 公開
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スウェーデンの認知症高齢者のためのグループホーム
スウェーデンは、個人による自己決定を何よりも尊重しています。自立して生きることが社会で大きな意味を持ち、当たり前となっているスウェーデンで考案されたのが、グループホームです。グループホームは、主に障害があったり認知症であったりするなど、継続的で長期的なケアが必要な人のための施設。ノーマライゼーションが当たり前になっているスウェーデンでは、グループホームにどのような考え方が反映されているのでしょうか。
2016年10月5日 公開
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認知症高齢者向け施設のあり方
スウェーデンでは、グループホームは障害があったり、認知症であったりと継続的で24時間のケアが必要な人が入居対象となっています。どのように、認知症などの高齢者が隔離などによって差別されるのを防ぎ、普通の暮らしをするというノーマライゼーションの理念を実現しているのでしょうか。スウェーデンのグループホームの仕組みはどのようなものでしょうか。
2016年10月12日 公開
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ノーマライゼーションを実現するスウェーデンのグループホーム
ノーマライゼーション先進国の一つスウェーデンで生まれた高齢者向け施設のグループホーム。日本のグループホームと比べて1施設の居住者は少なくありません。それでも、バリアフリーやユニバーサルデザインの施設を活用し、個人の自主性を重んじることで、ノーマライゼーションを実現しています。そんなグループホームの具体例を見ていきたいと思います。
2016年10月12日 公開
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教育界の分厚い人材が支えるインクルーシブ教育
北欧フィンランドは、ノーマライゼーションの育ての父ニィリエの母国スウェーデンの隣国。そのフィンランドで、インクルーシブ教育(インクルージョン教育、統合教育)が進められています。インクルーシブ教育とは、いわば教育のノーマライゼーションですが、どのような背景で発達してきたのでしょうか。
2016年10月12日 公開
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フィンランドのインクルーシブ教育
北欧フィンランドで進められているインクルシーブ教育。インクルージョン、統合教育とも呼ばれています。インクルーシブ教育は、学習のための障がいがあっても、障がいのない子どもたちと一緒の教室で勉強するというもの。フィンランドの小学校の授業で実際に行なわれているインクルーシブ教育の取り組みの具体的な事例を紹介します。
2016年10月12日 公開
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インクルーシブ教育と特別支援施設
教育のノーマライゼーションである「インクルーシブ教育」。インクルージョン教育や統合教育とも言われます。世界各国、各地でさまざまな取り組みが行われています。教育先進国イギリスでは、教育制度の方針としてのインクルーシブ教育を、「特別な教育的支援の必要性がある子どもが、可能な限り通常の学校で教育を受けるべきであるということ」だけでなく、「カリキュラムや学校生活において仲間と一緒に充分に活動すること」と位置づけています。このようなイギリスの教育システムや、さらに特別支援学校の状況とは…。
2016年10月12日 公開
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さいたま市の制定したノーマライゼーション条例
さいたま市は2011年、全国の政令指定都市に先がけて「ノーマライゼーション条例」を制定しました。障がいのある人への差別や虐待をなくして、障がいの有無にかかわらず誰もがともに普通の暮らしを送れるようにするためです。それによってどのようなことが行われているのでしょうか。
2016年10月12日 公開
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さいたま市の事例 - ブラインドサッカーの国際試合開催
2011年に、全国の政令指定都市の中で先がけて「ノーマライゼーション条例」を制定した埼玉県さいたま市がブラインドサッカーの国際親善試合「さいたま市ブラインドサッカーノーマライゼーションカップ」を開催しています。視覚障がいのある人とない人が共にスポーツを楽しむ機会の拡大を後押ししています。
2016年10月12日 公開
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ブラインドサッカーとともに共生社会を推進する企業
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が近づくにつれ、障がい者スポーツに関心が集まっていますが、なかでも障がいがなくても楽しめるブラインドサッカーが注目されています。ルールや障がい者ならではのコミュニケーションを社員教育に取り入れたり、ブラインドサッカーの機会拡大をサポートしたり…そんな企業の動きをご紹介します。
2016年10月13日 公開
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ノーマライゼーションの考えと東松山市の学校教育
埼玉県東松山市は、最近では2016年にノーベル賞(物理学賞)を受賞した梶田隆章の出身地として話題になった街。その東松山市は2007年に、就学支援委員会(就学指導委員会)を廃止しました。委員会を廃止したのは全国で初めてですが、障害がある子どもでも、子ども本人や保護者が望む地元の学校に通えるようにする取り組みです。この結果として、どのような変化が出てきているのでしょうか。
2016年10月13日 公開