グループホームを生み出した国スウェーデン
在宅介護式で進めるノーマライゼーション
今、日本でも世界でも、ノーマライゼーション(ノーマライゼイション)の概念に基づいて、高齢者福祉では在宅介護を提案することが増えています。画一的なサービスしか提供されないことが多い大型施設ではなく、在宅介護によってノーマライゼーションの理念である「誰もが普通の暮らしを実現できる社会にしよう」と考えたためです。ただ、在宅介護といっても、ずっと住んできた自分の家で介護したり、介護を受けたりというだけではありません。
スウェーデンでは、高齢者住宅として建設されたところへ賃料を支払って入居し、自宅の家具や使い慣れた道具、思いのこもったものを持ち込んで、自宅に住んでいるのと変わらない環境で暮らすことも含まれます。具体例としては、ソファやテーブル、そして植木や絵画などを持ち込みます。在宅介護のために入居した高齢者住宅が、自宅の役割を果たすのです。
高齢者住宅と同様、誰もが普通の暮らしを送れるようにしようというのが、グループホーム。特に、手厚い介護が必要であったり、認知症であったりする人が暮らす自宅の役割を果たします。グループホームという概念は、ノーマライゼーションの考え方を世界に広めたニィリエの生まれた国・スウェーデンで生まれました。
スウェーデンは、1940年代から高齢者福祉の向上に力を入れてきた福祉の歴史があります。一方で、日本と同様に80歳以上人口の増加という課題も抱えていました。スウェーデンは解決策として、高齢者を病院に入所させるのではなく、在宅介護を推奨することによって予算を抑制する方針を打ち出しました。自宅もしくは自宅のような高齢者向け住宅、グループホームでの福祉は、ノーマライゼーションの理念とも合致していました。
認知症介護を行うグループホームであっても、それぞれの個室がきっちりと分けられており、一つひとつが住戸として成立しています。国は法律を整備しましたが、必要なケアサービスを提供するのは各地方自治体。国の高い基準を維持しながら、各地域に適応した制度を柔軟に整えることができます。
スウェーデンでは、一部国からの助成金もありますが、手厚いサービスの高齢者福祉の多くは地方自治体の税金で賄われています。地方自治体は、福祉サービスを提供する民間企業に実質的な運営を委ねるケースも少なくありません。いずれにしても、個々のニーズに適したサービスを提供できるようになっています。具体例としては、外出するための介助サービスやベッドから起き上がるための大型介助器具の無料貸し出しなどが挙げられます。
日本のグループホームとの違いは、1施設の中における入居者数でしょう。日本では個々に適したケアを実現するため、入居者数は数人に限定するなど人数をできるだけ少なくしようという施設が多いのですが、スウェーデンでは80人くらいというところも少なくありません。といっても、スウェーデンのグループホームは、いわゆる「大型施設」とは異なります。各人が自宅のような機能を備えた個室の中で、自己の選択によって尊厳を持って自立した日々を暮らせるように、自治体の制度を遵守して、ノーマライゼーションつまり個人の自立や普通の暮らしに対し、柔軟な対応がされているのです。
ノーマライゼーションが当たり前の社会で
介護スタッフのやりがいも実現
それでは、認知症や継続的なケアが必要な高齢の障害者などを対象にサービスを提供しているスウェディッシュ・ケア・インターナショナルのグループホームを例に見てみましょう。
ここでは、たとえ認知症の高齢者であってもサービスをただ押し付けられるわけではありません。スタッフは、居住者が自分でできることは積極的にしてもらうという方針を守っています。例えば、自分で料理を作ることはできなくても、提供する食事について食べたいメニューを受付けたり、家族を招いて大勢で食事できるように準備をサポートしたり……。そしてもちろん、「今日は自分一人で過ごす」と本人が決めれば、自分の部屋で過ごす時間を尊重します。
たとえ認知症であっても、入居者は自分で自分の毎日のあり方を選択し、決定することができます。施設では、できるだけ入居者自身が「人生を楽しもう」という意欲が湧くような刺激を与えるように注力しているといいます。その方法の一つの例として、施設内に室内プールやスパを持ち、エクササイズやマッサージを行えるようにしています。
施設は、個人の部屋のほかに、居住者たちが集まって使えるダイニングなどの共同スペースなど、すべて広々と余裕を持って作られています。それは、多くの車椅子の人がすれ違っても問題がないほどで、バリアフリーを体現した作りです。また、車椅子を使わずに自分で歩ける人が使うテーブルや椅子の高さは、車椅子の人と一緒に使っても快適であるなど、施設だけでなく付属物に至るまで、高齢者とその介助者が利用することを想定し、バリアフリー、ユニバーサルデザインを意識したものが揃えられています。
さらなる特徴は、働く人たちがプロフェッショナルとしての自覚と知識を高く保つことに注力している点です。例えば、快適な毎日を過ごすために医師だけでなくマッサージ専門スタッフを置き、精神的にリラックスできるようにするなど、スタッフ各々が違う能力を備え、全体としての福祉サービスを完成させるように配慮しているといいます。この取り組みによって、スタッフが働きやすい環境だと感じ、スタッフ自身の存在意義が高められていると言えるでしょう。
認知症や障害を抱える高齢者がそれぞれに求めるものが異なり、時や場合によっても要求が違うことをスタッフが理解していることも特徴です。それが施設の誇りでもあり、認知症患者を肉体的にだけではなく、精神的にもサポートしているようです。
スウェディッシュ・ケア・インターナショナルでは、さらに、物事をトップダウンで決めるだけの管理者を置かずに、スタッフ同士の意見と意思で決められた結果を報告することにしているそうです。この結果により、入居者の求めるサービスを優先的に提供できるようにしているのです。
自分のことをすべて自分でするには不自由があり、継続的な手助けを必要とする認知症の高齢者であっても、できる限り普通の生活を送れるようにしよう、つまりノーマライゼーションを実現しようという国の取り組みが、グループホームで働く人の意識の向上にもつながっています。まさに共生社会の例といえるかもしれません。
参考文献・出典
スウェディッシュ・ケア・インターナショナル http://sci.se
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